大磯町のイメージ画像

(前編)

密航中にジョーと呼ばれたから「襄」になった。新島襄終焉の地

照ヶ崎海岸入口から二宮寄りのところ、国道1号線沿い(下り車線)に「新島襄終焉の地碑」がある。新島襄はご存じの通り、同志社大学の創立者。正確には同志社大学の前身である同志社英学校を開設した人だけど、まあ、事実上の創立者である。

新島襄終焉の地碑
毎年、命日の1月23日には同志社の方々や町の関係者が集まり、供養が行われる。

1889(明治22)年11月、病に倒れた彼は、静養のために大磯にある百足屋 (むかでや)旅館に来た。百足屋の別館で静養していたが、年が明けた明治23年1月に46歳11ヵ月にて永眠。大磯にはわずかの滞在だったが、ここが最期の地となってしまったのだ。
彼を偲び、1940(昭和15)年、百足屋の敷地だったこの場所に碑が立てられた。
ちなみに、本名は七五三太(しめた)という。姉が4人おり、やっと5人目で男子が誕生したので、祖父が思わず「しめた」と言ったことから、この名になったとか……。
二十歳(はたち)過ぎた彼は、日本が鎖国中にも関わらず、函館より米船ベルリン丸に乗り、上海を経てアメリカ合衆国に密航。そのとき「ジョー」と呼ばれたことから帰国後「襄」あるいは「譲」と名乗るようになった。
でも、なんで「しめた」がジョーになったかというと、じつのところよくわからない。でもジョーって言うのは、英語圏ではよくある名前、日本で言えば「太郎」みたいなものだ。それで親しみを込めてジョーって呼んだらしい。

大磯の名勝「鴫立庵」。入口脇にある「穴あきケヤキ」も名木だ。

「新島襄終焉の地碑」の先には、大磯の老舗である真壁豆腐店や井上蒲鉾店がある。真壁豆腐店は明治39年創業、この店の木綿豆腐を吉田茂が好んだのは有名な話。
また井上蒲鉾店は明治11年創業。他の町からわざわざ買い物に来る人も多く、行列のできる店としても知られている。名物のさつまあげは午後2時頃には売り切れてしまうので、お早めに。
そして、その先にあるのが日本三大俳諧道場の一つとされる「鴫立庵」。小さな所だが、町自体が小さな大磯では観光史跡の目玉となっている。鴫立庵という名称は、西行が
「こころなき身にもあはれは知られけり鴫立沢の秋の夕暮」
と詠んだことに始まる。西行は平安時代末期から鎌倉時代初頭の人で、この辺りに来たときにこの句を詠んだらしい。みなさん、知ってますよね、教科書にも載るくらい有名な句ですから。
意味は〈世俗の情を絶った出家した自分であっても、しみじみとした情緒を感じます。この鴫の飛び立つ沢辺の秋のタ暮れには〉ということだ。でも意味なんかよくわからなくても、「こころなき」とか「あはれ」とか、「秋」「夕暮れ」とくれば雰囲気は十分伝わってきますよね。
その後、江戸時代初期に小田原の崇雪(そうせつ)という人物が、この歌にちなみ、この場所に「鴫立沢」という標石を立てた。
その標石の裏側に、「著盡湘南清絶地」と刻まれていて、湘南という言葉が使われている。これが湘南の始まりということで、鴫立庵脇、国道一号線沿い「とんかつ はやし亭」の前に「湘南発祥の地碑」が立てられている。
ちなみに「著盡湘南清絶地」は「ああ、しょうなんせいぜつち」と読む。“清らかですがすがしく、このうえもない所、湘南とは何と素晴らしい所”という意味だそうだ。

鴫立庵 鴫立沢 湘南発祥の地碑
写真左)鴫立庵入口脇の大ケヤキ 幹が割け向こう側が見ている状態でも頑張っている。

写真右)鴫立庵に入る前には国道1号線から降りる階段。昔はこの階段を降りたあたりの高さに東海道の道があった。つまり一号線は昔よりずいぶん高い場所にできてしまったということだ。

鴫立庵は入庵料100円、中には数々の句碑が立てられ、西行法師や虎御前の像が安置されている。まあ、100円だから気軽に入れるけど、まずその前にぜひ見ておきたいのは、入口を入る前、鴫立沢の脇にどーんと立っている大ケヤキだ。樹齢300~400年、幹が割けてぽっかりと空洞になっている。こんな状態で大丈夫なのか? 
鴫立庵の受付の人に尋ねたところ、定期的に樹医に看てもらっているが、樹勢も衰えていないので「大丈夫だろう」ということだ。松で有名な大磯だが、このケヤキも名木の一つであることは間違いない。

鴫立庵とお隣の食事処は、お互いにいい感じ

ところで大磯は、町の景観保全に力を入れている。昨年4月には「景観条例」が施行され、町内あらゆる場所で、これから建てられる建築物は地区により外壁、屋根の色や形、外構などに制限がかけられたり、「できるだけ、こんなふうにしねて」という方向性が示されたりしている。
これから歩く海沿いの別荘地帯はその規制が最も厳しい場所の一つで、景観形成重点地区に指定されている。
なぜ、こんなことを言い出したかというと、いま紹介した鴫立庵もその隣に建つ「とんかつ はやし亭」も景観形成重点地区にあるいうことだ。史跡である鴫立庵はともかくとして、店舗である「はやし亭」すでに13年前から営業をしているので、現在の建物は今回の景観条例の対象にはなっていない。
にも関わらず、壁は地味でそこにかかる看板も小さい。そのおかげもあり、歴史ある鴫立庵はしっとりと落ち着いた雰囲気が保たれている。
もし、はやし亭さんが、もっと色鮮やかな外壁にし、看板も堂々とした大きなものを出していたなら、あの一画はもっとケバケバしいものになっていただろう。
大磯では看板に関する町独自の決まりはなく、県の屋外広告条例に従うことになっているのだが、それよると、もっともっと大きな看板をかけることができる。1号線に面した店舗なのだから、もっとでかい看板をかけ、もっと目立った建物にもできたはずなのに、控えめで、周囲と調和している。
しかしながら、壁面にかけたあの看板は、あの大きさ、あの色遣いにも関わらず、意外と目を引く。品がいいのに、建物の質感、色合いとあいまって、けっこう目立つのである。これは、ひとえにオーナーのセンスなのだと、思う。
ちなみに、はやし亭にはテラス席がある。そこに座ると鴫立庵は目の前。鴫立庵の樹木の枝がお店のテラスにかかるほどだ。鴫立庵を眺めながら食事ができるというか、まるで鴫立庵の庭先で食事をしているような気分になる。
これはちょっとした贅沢である。1号線沿いの店なのに、車の往来を感じさせない雰囲気もいい。
そして鴫立庵にとっても、この場所が「はやし亭」でよかったのだと思う。鴫立庵の中から「はやし亭」を見たところ、庵の樹木と店のテラスや壁面がうまく溶け合い、洋風の建物でありながら、ほとんど違和感がない。もしこれがちょいと色遣いの派手な民家であり、バルコニーあたりで洗濯物がひらひらしていたら気分も台無しである。
はやし亭と鴫立庵、なんかとってもいい関係である。

とんかつ『はやし亭』 小さな看板だが、なぜかよく目立つ。周りの雰囲気を壊すことなく、お店であることを主張している。 はやし亭テラス席。鴫立庵から張り出す樹木の枝がさわれるほどだ。
はやし亭から見た鴫立庵 鴫立庵近くにある
ライオンズマンション付近の路地

大磯町役場も元は山内家の別邸だった

鴫立庵からそのまま二宮寄りちょいと進むと、大磯町役場である。
駐車場の傍にはあちこちに松の木があり、いかにも海辺の役所という感じ。町役場の駐車場としたらなかなか情緒がある。
それもそのはず、この場所は山内豊景(とよかげ)の別邸があった場所だ。山内豊景というのは土佐山内家17代目当主である。その2代前は現在NHKで放映中の大河ドラマ「龍馬伝」にも登場している土佐藩主・山内容堂である。豊景を知らなくても、このドラマのおかげで山内容堂を知っている人は多いだろう。龍馬の故郷、土佐藩の15代目藩主である山内容堂はドラマの進行上、重要なファクターを担っている人物だ。近藤正臣さん扮する容堂は、アクの強い小にくらしい男、そのうえ、ようとして手の内を明かさぬような存在感のある人物となっている。
話は豊景に戻るが、彼は明治8年生まれ、陸軍少佐で退役し、貴族院議員となった。明治中期にこの場所に居住し、昭和32年に没した後、1971(昭和46)年、大磯町役場となっている。

さすが大磯というべきか、役所の駐車場にも松の古木が……。 役所にある急速充電器。一般の人も利用もできる。無料だが利用の際は受付に一声かけてください。(休日は5時までの利用) 役所の西側にある海に続く小径(海側から)

土日でも役所は開いているので、もし町歩きなどに来たらぜひ寄ってほしい。入口脇にいろいろな観光パンフも置いてあるし、自販機やトイレもあるので休憩所としても利用できる。前回も書いたけど、アオバトの剥製もある。
ちなみに、土日など役所が休みの時には駐車場が有料となり、自家用車1回300円(夕方5時まで)となる。最近はやり出した電気自動車で来たなら、無料で充電もできる。もし、充電するときには、受付に一言いって。休日だったら駐車場入口にいる警備の人に、「充電させてね」と言えば、充電中は駐車料金がかからない。親切ではありませんか

そして、この役所からおおよそ直線距離にしておよそ150メートル、大磯中学校までが、もっと古き良き大磯を思わせる別邸の小径が続いている。現在、別邸の大部分がマンションになったり、企業の研修所になったりしているが、小径だけはその面影を色濃く残している。
次回は、そこを散策してみる。続く……。  次へ

はやし亭に、雲水が来た。

私が食事をしていたときに偶然、托鉢の雲水が来た。店の人の話では年に1回程度来るらしい。私もほんとうに久々、何十年ぶりかに見ました。
修行僧である彼らはお店や会社、民家などを訪ね歩き、お布施をいただく。修行といえ、大変ですね。
はやし亭・ある日の日替わりランチ
ランチは平日のみ(飲み物付き)で1000円~1300円

写真のランチは
「ひれかつとカニクリームコロッケ/1200円」
取材協力 大磯ガイドボランティア協会
大磯町観光協会
大磯町役場観光推進室
同志社大学
参考資料 「おおいその歴史」大磯町発行
「大磯町史」大磯町発行
「大磯町史研究」大磯町発行
「大磯俳句読本」大磯町観光協会発行
「大磯まち歩きマップ――駅周辺」大磯ガイドボランティア協会発行
大磯町役場観光推進室運営管理HP Isotabi.com(イソタビドットコム)
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